遺産分割協議で決められること、決められないこと
遺産分割協議で決めることができるのは、前述したとおりプラスの相続財産の行方です。
借金のようなマイナスの相続財産は、そもそも遺産分割協議の対象にならないとされているのです。
遺産分割協議の対象にならないということは、その遺産の帰属は自動的に決まってしまうことを意味します。
誰かが亡くなって相続が開始すると、マイナスの相続財産で「可分のもの(分けることができるものであり、たとえば借金のような金銭債務)」は、法定相続分に応じて当然に承継されます。
相続人が複数いた場合は、法定相続分に従ってマイナスの相続財産が相続されることになるのです。
過去の裁判所でも、同様の見解が示されています。
遺産分割の対象たる相続財産中に相続債務は含まれない(大阪高決昭和31年10月9日など)
くどいようですが、遺産分割の対象はプラスの相続財産です。
したがって遺産分割で「何も相続しない」と決めたことは、「プラス財産は相続しないが、マイナス財産は相続すること」につながるため注意しなければならないのです。
遺産分割協議の実施は「法定単純承認事由」に該当する可能性
そもそもですが、民法921条に該当する事由(これを「法定単純承認事由」といいます)があれば、相続放棄をすることができなくなり、自動的に単純承認と扱われてしまいます。この民法921条のなかには「相続財産の処分」が含まれていて、過去の裁判例によると、遺産分割協議は法定単純承認事由である「処分」に該当してしまうという判断があるのです。
しかしながら、遺産分割協議をしてしまったからといって、相続放棄が絶対にできなくなるわけではありません。
過去の裁判例でも、下記にあるように、相続放棄の余地が残されていることが分かります。
遺産分割協議は法定単純承認事由に該当するというべきであるが、相続人が多額の相続債務の存在を認識していれば当初から相続放棄の手続を採っていたものと考えられ、相続放棄の手続を採らなかったのが相続債務の不存在を誤信していたためであり、被相続人と相続人の生活状況や他の共同相続人との協議内容によっては、本件遺産分割協議が要素の錯誤により無効となり法定単純承認の効果も発生しないと見る余地があるとして、相続放棄の申述を却下した原審判を取り消して、更に審理を尽くさせるため差し戻した事例(大阪高決平成10年2月9日家月50巻6号89頁)
遺産分割協議をした後に相続放棄をしたいのであれば、検討するべき事項が多岐にわたるため、専門家に相談することをおすすめいたします。